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伊東屋の営業精神 ~明治43年『伊東屋営業品目録』より~ その2

今回は、前記事伊東屋の営業精神 ~明治43年『伊東屋営業品目録』より~ その1の後編です。

同じく、出典は1910年(明治43年)の『伊東屋営業品目録』で、前回の続きからです。
太字は原文、【  】内は現代語にしてみました。
・旧漢字は新漢字に改めました
・補った表記はカタカナにしてあります(例:奉存候 →存ジ奉リ候)(不 → ~ズ)
・句読点を補いました

伊東屋は時代の要求に従ひ、常に改良文房具の考案作成に苦心仕り居り、又、絶へず欧米諸国に於ける流行の粋を撰び、賞翫と実用とに適せるものを逸早く直輸入取揃へ居り申シ候。
【伊東屋は時代の要求に従い、常に改良された文房具の考案や作成にに苦心いたしており、また、たえず欧米諸国における流行の最高水準のものをえらび皆様に愛でられ実用に適したものをいちはやく直輸入し取り揃えております。】

及び、洋式帳簿は、紙質の善良、装丁の堅牢を期し、又、カードの立案及び容器の設計は、御満足に御用便致ス可ク候。
【及び、洋式帳簿は、紙質の良く、装丁の丈夫なものを期し、又、カードの立案およびカード容器の設計は、皆様がご満足にお使いになれるようにいたします。】

又、一般の活版石版印刷等を取扱ひ居リ候。
【又、一般の活版や石版の印刷等を取り扱っております。】

猶、地方顧客各位の為め、特に地方係を設け之有リ、各位の厚き御愛顧に依り、日に増し繁盛に相趣き候段、有リ難キ仕合セト奉リ候。
【なお、地方の顧客のため、特に地方係を設けてあり、皆様の厚いご愛顧により、日ごとに注文が増し繁盛にむかっておりますことは、ありがたき幸せと思っております。】

今後に於ける当伊東屋の営業振りは、慥に小売販売の範を示すべきものと自信仕り、励精以て御厚情に酬ひたてまつるべく候間、倍旧の御引立のほど願ヒ上ゲ奉リ候。 敬白
【今後における当店伊東屋の営業ぶりは、たしかに小売販売の模範を示すべきものと自信を持っており、業務に励み努力することによってみなさまのご厚情にお応えしておりますので、従来にも増して一層お引き立てくださいますようお願い申し上げます。敬白】

伊東屋

まだまだ洋式文具そのものが不足していた時代、伊東屋はその開拓者として、自ら時代に合ったオリジナル文具を考案し、あるいは、こういうものを作ってほしいという要望にこたえて製作をしていたのですね。
Photo_2 カード情報整理が既に行われようとしていたのも驚きです。
舶来ものも、美しく鑑賞に値するだけではなく、実用的な機能も持ったものを選ぶ。
そして、地方に住み、伊東屋に来店できない人のための通販に力を入れています。
(このあと、この時代の郵便制度を取り上げるつもりなのですが、明治43年には、今、私たちが利用している郵便関係のシステムは、すでにほとんど整備されているのです。驚くべき速さです。)

もちろん、伊東屋が扱っているものは、高価な洋式文房具です。
一般庶民が、伊東屋のカタログを手に文具を注文できたわけではなく、利用できたのは一部の名士や富裕層であったことでしょう。
それでも、この文面からは、お客を選別する気持ちが感じられないのです。

「新式文房具は、必ずあなたの仕事を能率を上げて利益を与えるものなのです。」
「一刻も早く、この新しいシステムを取り入れて、その効果を確かめていただきたい。」
「新しい時代を生きるあなたには、この新式文房具こそがふさわしい。」
それを選ぶお客の精神が革新的であるかないか、それだけを問うているように思えます。

伊東屋は自らを「小売販売の範を示すべきもの」と自信を持って言い切っています。
この時代の他の目録類を見たことがないのでわかりませんが、時代の勢いもあるとは言え、ほれぼれするような巻頭言だと思います。

※ この本については、これから気の向いた時に取り上げていきます。

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【関連記事】

→ 「明治の舶来木製筆箱の図版 ~明治43年『伊東屋営業品目録』より~ その3」 へ

→ 「 『文房具の歴史』(野沢松男)の筆箱考察 ~続・明治の舶来木製筆箱の図版~」 へ

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コメント

こんばんは

21世紀にも通用する巻頭語ですね(^^)

確かに似たような文章は他でも見受けられますが、
たいていは「釣り」目的程度の能書きであって、
儲けようとする域を脱していないものがほとんどです

>小売販売の範を示すべきもの

高い志がなければ言葉倒れに終わってしまうでしょうが、
絶えることなく明治・昭和・大正・平成と
受け継がれていたのでしょうね
ただ・・・21世紀の「開拓」は、ことのほか大変であり、
迷走しているようですが・・・

 

投稿: 松本麗香 | 2009年1月13日 (火) 21時24分

麗香さん こんばんは
ここには、物を商うだけでなく、自分たちが新しい文化の担い手となるのだ、という心意気が感じられます。
伊東屋は高価な舶来ものも、美しさと機能が伴えば扱います。
しかし、この本に出てくる伊東屋オリジナル万年筆は、「高価で構造の不完全な万年筆」に対抗して生まれた「丈夫で美しく極めて安い万年筆」なのです。
お客の求めに応じ、何とか多くの人にこれらを使ってもらいたいという願いがそこにあります。

21世紀の「時代の要求」は何でしょうね。
ビジネス用品だけではなくパーソナルな文具の時代なだけに、その多様な要求のどこにこたえていくのかが難しい時代だと思います。
伊東屋の最近の改革はその一端なのでしょうが、それが新たな顧客をつかむのか、従来の顧客が離れる原因になるのかは今は何とも言えません。

投稿: けふこ | 2009年1月13日 (火) 22時37分

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