オルゴールメリーのエッセイ ~金魚袋のビニールひも 番外~
金魚袋のビニールひも(金魚すくいの袋に通してある赤やピンクの中空のビニールチューブ)を編んだ手芸「ビニール編み」の材料や編み方について調べています。
先日、このビニール手芸をネットショップで通販していらっしゃるシミズさんからコメントをいただきました。
シミズさんは、ビニールひも手芸を復活させるべく、ネットショップでキットや材料を販売されている方です。(詳しくは、記事「ビニールひもの編み方の参考本 ~金魚袋のビニールひも5~」のコメント欄をご覧ください。)
シミズさんのネットショップ レトロポップベビー の画像を見ていたら、完成品の中にかわいいものを見つけました。
ベッドメリー というシリーズ。
ビニール編みのかごにキューピーさんが寝ていて、上にオルゴールメリーが吊るしてあるシリーズです。
オルゴールメリー、今はあまりこの形はないように思います。
プラスチックの赤やピンクの花形をつないで長くぶらさげた形。
天井から吊るして、回すと、ころんころんという音と、プラスチックのこすれる音が広がるあれ。
オルゴールメリー、懐かしいなあと思い、誰かのエッセイでこれに関する素敵な文章があったことを思い出しました。
オルゴールメリーを見つめる赤ちゃんの目、それを見る人の幸せ、やがてはオルゴールメリーが不要物となりほこりをかぶってけっこう面倒だったと捨てられてしまうまでを描き、自分がオルゴールメリーを買ってもらったことは忘れてもその思いは残る、というような、抒情に流れず、でも温かい美しい文章。
そうなったら気になってしまい、本棚をあちこちひっくり返して、その文章を見つけました。
増田れい子さんの『一枚のキルト』(北洋社)です。(1976年の本なので、図書館などの方が見つかるかも)
細かい花柄などの美しい小さい布をひし形に切って組み合わせたキューブキルトを、写真に撮って柔らかいもみ紙風の紙に印刷した装丁の小型本できれいです。(このパッチワークキルトに関するエッセイもあります)
その中の「オルゴール・メリーのある窓」という文章でした。
削るところのないような文章で、一部引用が難しいほど。
まず、冒頭。
それを短くメリーさんと呼ぶ人もいる。赤ちゃんのための、ちゃらちゃらとまわるつるしおもちゃ。赤や黄やピンクといったおさない彩りのセルロイド(もっともこのころはプラスチックである)で花のかたちを切り抜き、それをいくつもつないで花づなのようにしたのを、何本もとりあわせて、房のようにしてある。それを生まれたばかりの赤ちゃんが、ふと目を見開いて空を眺めまわしたとき、さっとその瞳がとらえるように、天井からつるしておく。赤や黄やピンクの房が、くるくるとまわると、いっしょに「ゆりかごの唄」や「青い目のお人形」などの、やさしいうたが、ボロロン、ボロロンと、少し頼りなげに湧き出してくる。赤ん坊の黒い小さなひとみのなかに、セルロイドの赤や黄が、虹のかけらのようにくだける。赤ん坊は、ほんとうに見えているのかしら、どんなふうに見えているのかしら……おとなたちは、赤ん坊のひとみのなかの虹に見入るのだ。(同書 p.59~ 60より)
赤ちゃんと一緒に喜ぶ親の姿、オルゴールメリーの簡単な歴史、赤ちゃんに美しいものを見せたいという共通の願い、オルゴールメリーは「赤ん坊がはじめて見るこの世の花」。
窓辺にオルゴール・メリーの回る姿を見つけたり、オルゴール・メリーの音を聞くたびに、そこに赤ちゃんが生まれたのだという幸せを感じる作者。
そこに、「幸せ」という言葉は使われていないけれど、感じ取れます。
「オルゴール・メリーのある窓は、虹いろの雲がいっぱいにかかったようで、どんなぜいをつくした窓も、かなわない。」
やがて、赤ちゃんは、オルゴールメリーを見ているだけでは飽き足らなくなって、花をひっぱったりして壊してしまう。
ほこりにまみれたその破片は、分別ゴミの収集日に戸外に出してしまってそれでおしまい。
ひとはたいてい、赤ん坊のころ、親がつるしてくれた虹いろのオルゴール・メリーを記憶しない。だが、赤ん坊のためにそれをつるす。おとなになってはじめてオリゴール・メリーに触れ、そのとき突然自分もかつて親に愛されたのであろうというこそばゆく甘い思いの雲にふわりと乗るのである。(同書p.63)
今、読んでみてもやっぱり好きな文章です。
ほかにも、「手縫いのびろうど靴」「ぬり絵の喜一さん」「印花布の夏」「めりんすの匂い」「刺し子の布」「南京玉やビーズ玉」「花嫁のリボン」など、手芸や昭和レトロを扱った内容、そこに反戦の思いもしっかり込められたエッセイ集です。
ああ、何の本だったか見つけられてとてもうれしい^^
【金魚袋のビニールひも関連記事】
→ GETした金魚ひもは外国生まれ ~金魚袋のビニールひも4~
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