ネット書店アマゾンで、注文のついでにあちこちをあけていたら、1冊の本が目に飛び込んできました。
『ガムテープで文字を書こう! ―話題の新書体「修悦体」をマスターして』
ガムテープで文字を書くの?^^
ああ、ガムテープなら一定の線の幅で文字を書けるから、看板なんか作る時に便利そうだなあ。
表紙の題字は、原色のカラフルな文字で、丸みはありますが、往年の丸文字(変体少女文字)とは違う四角に当てはめたような文字。
「修悦体」というのは何だかわからないけど、おもしろそうだなと注文しました。
読んでみて驚いたのは、このガムテープ文字は、新宿駅改修の工事現場から生まれたのだそうです。
生みの親は、そこで乗客の誘導業務を行っていた佐藤修悦さん。
工事中の駅の迷路のような構内で、迷子になったお客さんが佐藤さんに道を尋ねてくるので、その人たちにわかりやすい表示方法として、佐藤さんが考案したのだそうです。
それで、この文字の名前が「修悦体」なんですね。
佐藤さんが文字を書くのに使ったものは、工事現場の詰所にあったガムテープ。
正確には、布粘着テープ。
手でまっすぐに切ることができ、重ね貼りもできるタイプのものです。
おすすめは、スリオンテックのカラー布粘着テープだそうですが、まずそれが現場にあったのではと想像します。
それを佐藤さんが壁に貼って切り出して生まれたガムテープ文字の表示がたくさん紹介されていました。
ガムテープやビニールテープで一時的な文字を貼った経験は私にもありますから、他にもやってみたことがある人は大勢いると思います。
その場合、画数の多い漢字はつぶれてしまって困りましたし、バランスが悪くなりました。
しかし、佐藤さんのガムテープ文字は、工事現場の壁という広い面に、みんなに見えるようにという配慮から、太いガムテープでも十分空白があるほど大きな文字です。
小さめの文字にする場合はガムテープを割いて幅を変え、テープが手でまっすぐに切れるという特性を良く活かしています。
漢字は横画のほうが縦画より多い構造の文字です。
なので、明朝体では横画だけを細くして、正方形にも納まるようにしています。
しかし、線の幅を変えずに隙間をあけていけば、字は縦長になります。
修悦体が縦長になるのは、漢字の特性を踏まえているからでしょう。
しかも、初めに必要な線の数を数えて、きちんと枠をとって書いているので、バランスがよいし、画数の多い文字もつぶれません。
そして、文字記号として必要な線ができたらそれで終わりではなく、一部の角をとって丸くしたりする。
このバランス感覚が絶妙なのです。
まずは手でばりっとテープを切ってどんどん概形を作り、カッターで余計な部分を切り取り、最後はカッターで丸みをつけて繊細に仕上げる。
作業効率もいいですね。
お手本があったわけではないこの文字は、佐藤さんが、「どうしたら見やすい表示ができるかな」と試行錯誤してできていったのだと思います。
満足のいく一つめができて、お客さんがそれを見て迷わずに歩いて行くのを見ながら、「次はもっとこうしたら」、「こんなこともできそう」、と、どんどん作り方の改良や工夫が加えられていったのでしょう。
工事が終われば無用になる表示に凝ってしまうのは、まさに人間ならではの技。
誰もほめてくれなくても、目をとめてくれる人がいるだけでも違うような気がします。
文字の角が丸くなくても記号としては問題ないのに、「この方がいい雰囲気♪」なんて一工程増やしてしまうのは、機械にはできない発想です。
でも、このガムテープ文字を「わかりやすい表示」として享受した人は多かったでしょうが(時期を考えると私も見ていたように思います)、「こんな文字見たことないなあ」「これ、どうやって作っているの?」「誰が考えたの?」とまで立ち止まって考えた人は少ないと思います。
それを「発見」した山下陽光さんの発信で、これはおもしろい、と興味を持つ人が増えて現在に至り、使われる場も増えているそうです。
家でこの話をしたら、家人はこの文字のことをテレビを見て知っていました 笑
色使いのセンスや文字の配置などは佐藤さんのオリジナルにかないそうにありませんが、こうやって作れば基本の形はできる、とマニュアル化されているところも、みんなが作りやすく使いやすい書体だと思います。
作り方も詳しく解説されているので、大きな表示を作る機会があったら、ぜひ使ってみたいと思いました。
それとも、種類豊富なマスキングテープで、小さいものをためしに作ってみようかな。(手でまっすぐには切れませんけど)
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